はじめに ―― fusion_place パターン・ライブラリー

このライブラリーについて

経営管理システムは、事業の特性や組織としての経営管理の考え方に従い、会社ごとに様々に異なります。

fusion_place は極めて柔軟性の高い経営管理プラットフォームであり、事業特性や経営管理の考え方を踏まえて、各企業のニーズにぴったり適合する経営管理システムを構築することを可能にします。経営管理システムにおけるレゴ・ブロック🄬のようなものです。

一方で、柔軟性の高いツールすべてがそうであるように、fusion_place の可能性を100%引き出すには、一定の経験と知識が必要です[1]。このパターン・ライブラリーは、そうした経験と知識を精錬した定石集のようなものとお考え下さい。「伸縮する軸」 といった「パターン」が個々の定石をあらわします。

パターンは個々に使うこともできますが、あるパターンを使うことで別のパターンの適用の可能性が開ける、というように、パターンとパターンはつながっています。単語をつなげていけば文章ができるように、パターンをつなげていくことで、経営管理システムのデザインが成長してきます。単語が集まって言語を構成するのと同じく、パターンが集まって「パターン・ランゲージ」を構成します。「組織変更に対応する」にてその片鱗をご覧ください。

当ライブラリでは、個々のパターンの紹介だけではなく、それらが他のパターンとどのように関連しているかもご紹介しています。

パターン・ランゲージについて

パターン・ランゲージは、建築家であり建築理論家でもあるクリストファー・アレグザンダーによって提唱されたデザインに関する理論です[2]。もとは、建築や都市計画のために考えられましたが、その後、ソフトウェアシステムを含む広範な対象に適用されています。

アレグザンダー自身が挙げたパターンは、例えば、「見えがくれの庭(111)」「座れる階段(125)」「生活を見おろす窓(192)」[3]といったものです。

パターンは、それぞれ、建築物の具体的な「形」をあらわすとともに、独特な状況に結び付いています。一例を挙げましょう。

「座れる階段」は、街なかに設けられた、まさに座れる階段です。歩行路や公衆の集まる広い場所があって、そうした場所には明確な形とある程度の囲いがあることが望ましい。そして、そういう場所では、人は、もっとも見晴らしのきく場所に行きたがる。 これが、「座れる階段」というパターンが生きてくる「状況=コンテキスト」です。そうした状況のもとで:

人びとがぶらつく公共の場所には、外縁部に2、3段の階段やレベル差を設けること。人が集まり、腰を下ろして出来事を見物できるように、下からじかにこの小高い場所に行けるようにすること。[4]

というように、建築物の「形」に関する知見が示されます。つまり、形だけを問題にしているわけではなく、識別された「状況」の中で、識別された「形」が何かの役に立つという関係性を「パターン」と呼んでいるわけです。

「座れる階段」が望ましくなる状況は、他のパターン、例えば「小さな広場(61)」、「正の屋外空間(106)」「歩行路の形(121)」によって準備されることもあります。これらはいずれも凸型の、すなわち建物による割込みがない屋外空間を作るので、そこに「座れる階段」を置きたくなるでしょう。また、「座れる階段」を作るならば、それを周囲の建物と直接接続することで「大地へのなじみ(168)」を構築することにつながる場合もあるでしょう。

このように、パターンは、個々に機能するだけでなく、他のパターンとつながります。ひとつのパターンを足掛かりにして別のパターンが展開することで、全体としての建物や街、都市が徐々に作られていくとアレグザンダーは考えました。アレグザンダーはこうしたプロセスを生物の発生における胚の分化になぞらえています。

デザインの本当の素材は、物理的な部材そのものではなく、(部材も基礎にした)パターンとその生成的な展開であるという着想には、大きな説得力があると私たちは考えています。


1. 一定の経験と知識が必要というのは、アプリケーションをデザインする方についての話です。一般のユーザーが要求される知識は、他のルールに比べて取り立てて多いわけではありません
2. 「パタン・ランゲージ――環境設計の手引」平田翰那訳、鹿島出版会、1984年(原書は1977年)
3. 各パターンに振られているのは、アレグザンダー自身が割り当てたパターン番号です。前述書を参照される際の手掛かりとなります
4. 前掲書 p.320