全社合計 [TOTAL]
∟ A本部 [A]
∟ A1部 [A1]
∟ A2部 [A2]
∟ A3部 [A3]
∟ B本部 [B]
∟ B1部 [B1]
世代統合型メンバーツリー
状況
組織は変更されることがある。組織変更に際して、新たな部門が追加され、既存の部門が廃止、統合、あるいは分割される。最下位部門の変動を伴わず、上位の括り方が変更される場合もある(例えば、三重支店を管轄する本部が関西地区本部から中部地区本部に変わる)。
組織が変更されても、過去のデータは、各事業年度で施行されていた組織にもとづいて集計/報告できなければならない。各年度が終了した後でも、数年間は、各年度に施行されていた組織にもとづいて、過去の実績や予算を集計し報告できることが必要である。
配慮すべきことがら
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組織ツリーの直観的把握:時とともに変わっていく組織を表現しようとすれば、マスターデータは複雑になりがちである。典型的なアプローチでは、組織マスターに適用期間(適用開始日と終了日で示される)を含めることで、時間とともに変化する組織ツリーを表現しようとする。このアプローチでは、各時点におけるツリーがどのような形となっているのか、直観的に把握することが難しくなる。世代ごとのツリーが直截に示されるアプローチの方が理解しやすいだろう。
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旧新年度並行運用の容易さ 年度の始め以降しばらくは、新年度の予実管理のために新組織ベースで予算・実績を集計するとともに、旧年度の実績が確定するまでのいくらかの期間においては、旧年度の実績を投入・修正してレポーティングする必要があるかもしれない。こうした並行運用に過剰な手間がかからない仕組みが望まれる。
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ディメンションメンテナンスの容易さ:組織変更時に、組織を表すディメンション(以下、「組織ディメンション」)の修正が容易であることが望ましい。
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組織ツリーの選択の容易さ:フォームやExcel-Linkでデータを表示する際、どの世代のメンバーツリーを使用するか容易に指定できるべきである。かつ、「伸縮する軸」と組合せて適用できなければならない。
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アクセス制御の容易さ:組織にもとづくアクセス制御の設定が容易であることも望ましい。例えば、関西地区本部の管轄する部門は年度ごとに増減するが、関西地区本部のユーザbーはいずれかの年度で同本部配下となった部門のデータにアクセスできる必要がある。このような設定が簡単に行えることが望まれる。
解決策
部門組織を表すディメンションにおいて、すべての世代の組織ツリーを統合した単一のメンバーツリーを設ける。
具体的には、組織ツリー上でリーフ部門が異動した場合、組織メンバーツリー上では、該当メンバーを移動させない。その代わりに、移動先の位置に新たなメンバーを作成する。その上で、旧メンバーのラベルを新メンバーに付与するとともに、旧メンバーには、既存の部門メンバーのラベルと衝突しないようなラベルを付す。
なお、本パターンでは、fusion_placeで、メンバーのラベルを変更することができ、変更してもデータは温存されることを利用している。
廃止されたリーフレベル部門の扱い
リーフレベルの部門が廃止された場合、廃止された部門に対応するメンバーはメンバーツリーに含めておく。そうしなければ、世代統合型メンバーツリーで過去の実績を集計する際にその部門のデータが抜け落ちるからである。
部門が廃止されたことと、その部門のデータが集計不要になることは異なる。廃止された部門について、メンバープロパティ「使用区分」を「使用せず」とすれば、そのメンバーへのデータ入力と修正は禁止される。
異動時のメンバーラベルの変更と、メンバーラベルに関する規約の必要性
組織ツリー上でリーフ部門の位置が変わった場合、その部門にこれまで対応していたメンバーは旧位置に残り続ける。新位置に設けられるメンバーと区別するために、このメンバーのラベルを変更する。。ラベルは、メンバーが旧部門を表していることが容易にわかるように体系化する。
後述の例では、メンバーのラベルの末尾に、下線に続けて、そのメンバーの世代を表す文字列(「03」等)を付すことにより、これを達成している(世代はメンバーごとにカウントし、01、02、03…という具合に付している)。
集計レベルの部門は、存在する限り特定のひとつのメンバーに対応づけられるので、このような配慮は不要である。
これらの点を踏まえて、集計部門・末端部門とも、メンバーラベルの命名規約を決めておくことが望ましい。
異動時のメンバーラベルの変更に伴う業務責任単位への影響
リーフ部門に対応する業務責任単位が設けられることが多いと思われる。この業務責任単位の「責任範囲指定キー」にリーフ部門のメンバーが指定される。旧位置のメンバーのラベルを変更した場合、責任範囲指定キーも、変更後のメンバーラベルに変える必要がある。
併せて新位置のメンバーに対応する業務責任単位を新たに設け、その「責任範囲指定キー」には、新位置のメンバーのラベルを付す。
メンバーラベルの変更を行わない別設計案
本パターンでは、異動した部門に対応するメンバーのデータを温存する目的で、メンバーラベルを変更しているが、メンバーラベルを変更しない別解も可能である。この場合、リーフ部門をあらわすメンバーのラベルに、最初から世代番号を含めておく。例えば、A3部 を登録するときに、ラベルを A3_01(A3部の世代No.1)としておく。そうすれば、異動した際には、このメンバーのラベルはそのままにして新メンバーのラベルを A3_02 とすればよい。会計システムなどからのデータ取り込みに際して部門コード「A3」等を「A3_01」等世代番号付きのラベルに変換することが必要だが、インポート時に変換テーブルで世代番号を付すことは難しくない。
組織変更への対応は後付けで考えられる場合が多いので、本パターンのようにメンバーラベルを変更するアプローチは便利だが、最初から設計に織り込むのであれば、メンバーラベルに世代番号を織り込む案も考慮の価値がある。
よりシンプルな解決策:組織変更前アプリケーション
よりシンプルな解決策として、アプリケーションのデザインで対応するのではなく、組織変更反映前で必要なデータが投入済みのアプリケーション全体をコピーして(すなわち、バックアップ後にそのバックアップファイルをもとにアプリケーションを新規作成して)、「組織変更前アプリケーション 」を設けるという対応が可能である。
例
異動の例
03事業年度にはA本部に属していたA3部が、04年度にはB本部に異動したとする:
| 変更前メンバーツリー | 変更後メンバーツリー |
|---|---|
全社合計 [TOTAL] |
変更前のメンバーツリーの A3部 [A3] は、変更後のメンバーツリーでは 旧A3部 [A3_03] に変更されている。ラベルは変更されているが、変更前において A3部 [A3] が保持していたデータは、変更後の 旧A3部 [A3_03] に引き継がれている。
加えて、B本部の配下に新たなメンバが追加され、ラベル A3 を付されている。
ひとつのリーフ部門に対して、このように変更前のメンバーと変更後のメンバーの双方が必要となるのは、リーフ部門が移動した場合のみである。
異動時のメンバーラベル変更と業務責任単位の設定
上述の異動にともなう業務責任単位の変更内容は以下のようになる。
まず、変更前の業務責任単位は以下の通りである(A3部に関係する設定以外は省略)。
後述するが、業務責任単位のラベルは常に世代付きとしておくことが望ましい:
| ラベル | 名称 | 責任範囲指定キー(部門) |
|---|---|---|
A3_03 |
A3部 |
A3部[A3] |
部門ディメンション上で A3部 のラベルが A3_03 に、名称は「旧A3部」に変更され、新たなメンバーとして A3部 [A3] が設けられる。それを受けて、業務責任単位は例えば以下のように変更される。
| ラベル | 名称 | 責任範囲指定キー(部門) |
|---|---|---|
A3_03 |
旧A3部 |
旧A3部[A3_03] |
A3_04 |
A3部 |
A3部[A3] |
もとからあった業務責任単位(A3_03)の責任範囲指定キー(部門)を、もとからあったメンバー(A3_03)に紐付けることがポイントである。ワークフロー機能を使用している場合、こうしなければ、業務定義最新化の実行に際して、A3部のワークスペースに紐付けられるメンバーが新メンバーに差し替えられてしまって、入力あるいは提出したデータがコントリビューターから見えなくなる。ワークフロー機能を使用していない場合はさほど気にする必要はない。
統合の例
2つめの例として、03事業年度におけるA2部とA3部が、04年度にはA2部に統合されたとする:
| 変更前メンバーツリー | 変更後メンバーツリー |
|---|---|
全社合計 [TOTAL] |
全社合計 [TOTAL] |
この場合、A2部は存続するのでそのままである。A3部は廃止となるが、組織変更前のデータがあるのでメンバーツリーには含めておく。結果としてメンバーツリーの形は変わらない。A3部のラベルはそのままで構わないが、名称に「旧」等と付すとわかりやすいだろう。
分割の例
3つめの例として、03事業年度におけるA3部が、04年度にはA4部とA5部に分割され、A3部は廃止されたとする:
| 変更前メンバーツリー | 変更後メンバーツリー |
|---|---|
全社合計 [TOTAL] |
全社合計 [TOTAL] |
この場合、A3部は組織変更前のデータを保持しているので旧来の位置に置いておく(名称に「旧」等と付しておきましょう)。A4部とA5部は新たに追加される。
まとめ
異動・統合・分割いずれのケースでも、組織変更前のデータは変更前の組織ツリーに従って集計でき、組織変更後のデータは変更後の組織ツリーに従って集計できる。
一方で、こうしたツリーの工夫だけでは、組織変更前のデータを変更後のツリーにしたがって集計することはできない。この点への対応については、パターンクラスタ―「組織変更に対応する」の「当年度組織ベースで前年対比をおこなう」を参照のこと。
適用の帰結
利点
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組織ツリーの直観的把握:本パターンでは、すべての世代の組織ツリーが統合され、ひとつのメンバーツリーとして表現されるが、旧メンバーのラベルや名称を工夫すれば、わかりづらくはないと思われる
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ディメンションメンテナンスの容易さ:世代ごとにメンバーツリーを構築する必要がないので設定の手間はあまりかからない。異動によりメンバーラベルの変更が多発する場合も、エクセルからのインポートで一括変更できる。
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旧新年度並行運用の容易さ ひとつのアプリケーション内に旧新年度双方の実績データを保持するので、「組織変更前アプリケーション 」で必要となりうるような、2つのアプリケーションでの二重処理は生じない
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組織ツリーの選択の容易さ:組織を表すメンバーツリーがひとつしかないので、選択の必要がない
関連するパターン
後続パターン
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リーフレベルの部門が分割あるいは統合される場合、新組織ベースで、最新年度のデータを前年度データと比較するには、前年度データの分割や統合が必要になる場合が多い。「対比用前年値シナリオ」は、年度間対比のために分割/統合された前年度データを元データとは別に保持するパターンである。